2010年6月21日月曜日

おとうさん

 おとうさんが
体調をくずしたと きいたとき
目の前に浮かんだのは
もうずいぶん昔に
家のそばの道で
信号待ちをする姿。

まだ小学生だった私の弟が
ふざけながら後につづく
その光景。

父親と二人だけで
歩くのが
よほど嬉しかったのか
その気持ちが
全て足の運びにあらわれている
弟と

背の高い父の
悠然と構えた姿勢との
おもしろい影の交差が

経年してもなお
はっきり
まぶたに
焼きついている。

不自由だったけど
自由だった時代。

今あるものが
全てなくなってもいいと
思わせる
あの
夕暮れの時間。

「おとうさん」

世の中にこれほど
温かい
美しい
愛おしい
言葉は
ないかもしれない。

時間は
酷なもので
活力にみなぎっていた
ときも
小さなとるにたりない幸せも
ぶちこわしに
かかってくる。

いま


癌の痛みに闘っている
おとうさん


わたしには
いったい
何ができるでしょう。